【★×6】アレックス・リーヴ ハーフムーン街の殺人
ハーフムーン街の殺人
著者:アレックス・リーヴ
訳者:満園 真木
出版社:小学館
評価
★★★★★★(10段階評価)
推理部分は納得できないが、
登場人物の抱える生きづらさが繊細に表現されている。
あらすじ
以下、訳者あとがきから抜粋(ネタバレなし)
時はヴィクトリア朝後期の1880年。25歳のレオ・スタンホープはロンドンの病院で解剖医の助手として働いている。ソーホーの薬局の2階に下宿する独り者の彼には、人に言えない秘密がある。じつは、レオは生まれながらの男ではなく、シャーロット( ロッティ)という名の女の子としてこの世に生を享けたのだ。
厳格な牧師の家庭で生まれ育ったロッティは、幼いころから自分の性別に違和感を抱えてきた。人形遊びが嫌いで男の子の遊びにあこがれ、女の子に淡い恋心を抱き、こっそり兄の服を着て外を歩いて みることもあった。そして両親が婿候補を探しはじめた15歳のとき、もはや耐えられないと家を飛びだしてロンドンに来た。その日からレオ・スタンホープという名の男となって、10年間暮らして きた。
胸をさらしで押しつぶして男物の服を身につけ、肉がついて丸みを帯びた体型にならないよう食事を制限し、努めて低い声で話し、そうやって日々細心の注意を払って生活するレオの唯一の楽しみは、毎週水曜日に愛しのマリアに会いにいくことだった。
レオの秘密を知りながら、奇異の目で見ることも嗤うこともなく受けいれてくれた、ただひとりの女性マリア。レオは彼女に夢中で、いつかふたりでクラス日々を夢見ていた。
レオはある日、マリアを芝居見物に誘う。だが、約束の土曜日、彼女は劇場にあらわれなかった。その理由がわかったのは週明けの月曜日のことだった。レオの職場である解剖室に変わりはてた姿のマリアが運ばれてきたのだ。ロンドン橋近くのテムズ川の岸辺に打ちあげられていたマリアの死体には、頭部に無残な傷があった。何者かに殴られ、川に投げこまれたものとみられた。
ショックと悲しみで寝こんでいたレオだが、刑事がやってきて警察署へ連れていかれる。なんと、レオがマリア殺しの第1容疑者だというのだ。身に覚えのない彼はもちろん否定するが、幾人もの男たちとともに留置場に放り込まれてしまう。
殺人で有罪となれば待っているのは絞首刑。しかしそれ以前に、留置場や監獄ですごすことになれば、秘密がばれてしまうのは時間の問題だ。
絶体絶命の窮地に追いこまれたレオ。はたして、彼は自分にかけられた疑いを晴らせるのか。そして愛するマリアを殺した真犯人は誰なのか。レオは自ら真相を突き止めるべく、事件のことを調べはじめるのだが――
感想
お久しぶりです。
初回の投稿から、だいぶ期間が空いてしまいました。
体調不良とかもありましたが、とりあえずこの作品を読破するのに時間がかかってしまいました。
さて、今回は、女の身体に男の心を持つトランスジェンダーが主人公の歴史ミステリーです。
2019年の英国推理作家協会(CWA)ヒストリカル・ダガー賞の最終候補となった作品です。(受賞は逃してしまいましたが・・ ・)
レオが娼婦・マリアの死の真相を追い求ていく過程が、メインストーリーとなっていますが、
この小説の本題はジェンダー論だったと思います。
主人公のレオがトランスジェンダーであるのはもちろんですが、
女性論や、貧しい女性に対する性の搾取、娼婦に身をやつした女性へ向けられる蔑みの目、そうした問題が至るところで描かれていま す。
19世紀が舞台ですが、現代にも繋がる問題が多く、なかなか読み進めるのに気力を要しました。
正直ミステリーとしては、不完全燃焼感が否めません。
数々の修羅場をくぐり抜けた先に、突然ひらめきのように結論がでてきたように感じられました。
時代もあると思いますし、警察の協力もない中での捜査なので、科学的根拠が薄いのは仕方ないと思いますが、
容疑者の証言だけを繋いで結論づけるのは、さすがに早計が過ぎるかと。
数多の犠牲を払って追い求めた真相なのに、証拠もない状況ですんなりと納得できるものでしょうか。
まあ、時代も文化も違う人なので、完全には感情を共有できないのかもしれません。
文章表現に目を向けると、この著者の最大のポイントは五感描写の巧みさだと思います。
ヴィクトリア朝のロンドンといえば、光化学スモッグが毎日のよう に発生し、公衆衛生は未発達で、テムズ川も黒く濁っていた時代です。
出てくる表現も、気持ちのよいものではなく、不快な表現が大半を占めます。
しかし、その一つ一つが巧みに表現されていて、読んでいて思わず顔をしかめてしまうものばかりでした。
本記事を読んで、この作品を読んでみようと思われた方がいらっしゃいましたら、
ぜひ心身の調子がよろしいときに読まれることをおすすめします。