Mme. Zazaの書見台

読書録として、小説のあらすじ・感想を綴っています。

【★×5】東川篤哉 君に読ませたいミステリがあるんだ

 

 

 
君に読ませたいミステリがあるんだ

 著者:東川篤哉
 出版社:実業之日本社

 

 

君に読ませたいミステリがあるんだ

君に読ませたいミステリがあるんだ

 

 

 

 

 

 

評価

★★★★★(10段階評価)

 あっさり読める、初心者向けミステリー。

 推理するというよりは騙されにいくような、

 遊園地のアトラクション(?)のような作品です。

 ただ、読み返そうとは思えない……1回で満足です


あらすじ

第1話 

鯉ヶ窪学園高等部に入学した『僕』は、文芸部と間違えて、3年生 の水崎アンナが部長を務める(そもそも部員も彼女ひとりなのでは あるが・・・)第二文芸部の部室のドアを叩いてしまう。 アンナ曰く、第二文芸部は実践的な活動を本分とし、作家デビュー を目指す本格的な創作集団とのこと。第二文芸部に勧誘してくるアンナに対し、『僕』は彼女の作品を読んでから入部の判断をするこ とを提案する。するとアンナは、恋ヶ窪学園を舞台に彼女をモデル とした主人公が活躍する連作推理短編集を取り出した。 その一話は、桜舞い散る季節の放課後、音楽室で女教師が殺害され る《音楽室の殺人》だった。

 

第2話

6月になってもどの部にも入部していない『僕』は、ある雨が降る 日の下校時に、校舎の玄関で水崎アンナと出くわす。傘を持ってき ていなかった『僕』は、アンナにすすめられるまま彼女の傘へ入り 、そのまま第二文芸部の部室まで連れてこられてしまう。そして、 アンナは、例の連作推理短編集から、長雨の季節に起きた送球部部 長の殴打事件、《狙われた送球部員》を読ませた。

 

第3話

テストで赤点をとったせいで『僕』は、夏休みも補習のために登校 しなければならなかった。補習を終え、猛暑の中帰宅しようとして いたところ、プールで寛ぐ水崎アンナに遭遇してしまう。さすがに プールサイドには原稿はないだろうと高をくくる『僕』に、 アンナはタブレット端末を差し出した。その中には、事件現場のプ ール更衣室から逃げ去った見慣れぬ制服姿の女子が忽然と姿を消す 《消えた制服女子の謎》の原稿が入っていた。

 

第4話

運動会のクラス対抗リレーに出場していた『僕』は、バトンパスの 際に転倒し左腕を踏まれ負傷した。そのため救護員だった水崎アン ナに救護テントへ連れて行かれるが、 あいにく養護教諭は他の生徒の手当で不在だった。すると案の定ア ンナは原稿を取り出し、『僕』へ押しつけた。今度の作品は、体育 祭を間近に控えたグラウンドで何者かが投げた球体が男子生徒の頭 にぶつかる傷害事件、《砲丸投げの恐怖》だった。

 

第5話

運動会後、水崎アンナは『僕』に自作ミステリの原稿を読ませるこ とがなくなった。『僕』が話しかけてもつれない態度でかわされて しまい、知らぬ間にアンナの小説のファンになっていた『僕』が物 足りない気分でいたところ、卒業式直前にようやくアンナが姿を見 せる。そして、『僕』はアンナから読まされる最後の作品《 エックス山のアリバイ》を読み始めたのだが、実はそこには大きな トリックが仕掛けられていた。

 

感想

いわゆる作中作ミステリです。
恋ヶ窪学園を舞台にした《恋ヶ窪学園》シリーズの1作という位置付けのようですが、シリーズ作品とのつながりはほぼありません。

現に私は、《謎解きはディナーのあとで》シリーズしか読んだことがありませんでしたが、まったく支障なく読み進めることができました。

 

短編ミステリの完成度は、正直まったく大したことはありません。

所詮女子高生が思いついたありきたりなトリックで、簡単に見破ることができます。

ミステリのトリックを考えてみたいと思った人なら、誰もが1度は考え付いたであろうトリックばかりです。


また、表現力もお粗末で、妙に凝った言い回しをしたり、誤用すれすれの表現があったり。

主人公のスキルがやたら誇張されていたり。ただそこが絶妙にリアルで、高校の文化祭で売っている同人誌のクオリティがうまく再現されています。

いい大人になって読むと、まるで学生時代の文集を読み返した時のような、いたたまれないような恥ずかしさにも襲われます。

はじめはあまりに濃いキャラクターに胃もたれしましたが、次第に気にならなくなっていました。

 

小説に仕掛けられた最大のトリックは、読んでいるだけで気づくのは相当難易度が高いと思われます。
そもそもトリックが仕掛けられていること自体を、ネタばらしの段階までまったく気づきませんでした。

(もっとミステリを読み慣れている人であれば、気づけるのかもしれませんが)

このトリックは、見破ろうとすることを楽しむのではなく、騙されたことを楽しむのが正解である気がします。

まあ、このトリックを書きたいがためだけの小説ですしね。

正直登場人物の観点で考えたら、ほぼ誰も得しない、メリットのないトリックですからね。

 

トリック以外の部分で言うと、私は個人的に、小説を読み終えた《僕》が《アンナ》とミステリ談義(?)をする部分が好きでした。
ダメ出しする《僕》とミステリの暗黙の了解をたてに言い訳する《アンナ》。
実際の作家にもあてはまりそうな指摘が、とてもブラックユーモアに思えてきて笑えました。

 

短編集ではありますが、とにかく一気読みをオススメします。
ミステリ初心者には短編の難易度はちょうどいいかもしれません。
そして、最後に「裏切られた!」と叫んでください。

 

筆者のインタビューがありましたので、よければあとがきとして読んでみてください。
『謎解きはディナーのあとで』の著者・東川篤哉が語る 鯉ケ窪学園シリーズ最新作の創作秘話 | インタビュー | Book Bang -ブックバン-